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STS Network Japan 第5回定例研究会

報告者:香西豊子(東京大学大学院総合文化研究科国際社会学・博士課程)

報告タイトル:ブラッド・バンキング――日本における血液事業の展開とドネーション

日時:2004年10月28日(木)18時30分〜
会場:東京大学先端科学技術研究センター 13号館2階209号室
(最寄り駅:小田急線・東北沢駅より徒歩7分、井の頭線・駒場東大前駅より徒歩10分。詳しくは以下をご覧下さい。)
http://www.rcast.u-tokyo.ac.jp/map/map-j.html

【報告概要】

 第5回定例研究会では、現在、博士論文を作成中の香西豊子さんに、その内容の一部をご紹介いただきます。香西さんはこれまで、医学の実践と「身体」とがきりむすぶ関係性のあり方を、戦後の献体推進運動およびその歴史的な背景のうちに読み出すという研究をされてきました(修士論文「解剖台の上の『死』――解剖体収集活動と『篤志』の涵養」、投稿論文「解剖台と社会――近代日本における身体の歴史社会学にむけて」『思想』九四七号、ほか)。今回の発表では、そうした研究の中で見出された視角のひとつ、「ドネーションの際に語られる『篤志』や『善意』・『愛』ということばの歴史的現在性」を、さらに血液事業の「歴史」に即して展開してもらう予定です。

          *   *   *
 日本において血液事業が本格的に始まったのは、戦後のことと言われます。輸血をめぐる事故が多発し、それを防ぐ目的から「血液銀行」がつくられたのでした。「血液銀行」はその後、売血という血液の収集方式を中心に定着していきますが、昭和三十年代後半より、しだいにその弊害が指摘されるようになります。そのため、全国的な売血追放運動がおこり、献血方式へと移行していくのです。
 こうした血液事業の展開は、現在では往々にして、ひとびとのもつ「善意」が賦活されたことで血液事業が「本来」のすがたにもどったように記述されます。売血から献血へ、その転換が鮮やかだっただけ余計に献血の「愛」は賞揚され、売血の「非」は特定企業や当局へと向かうのです。しかしながら、血液事業が「安全」というロジックにのって始動したとき、売血方式にはそれを要請する社会的な状況がありました。その後、「安全」や「安定供給」というロジックはそのままに、血液事業のおかれた場そのものの再編があり、その効果として献血が推進されるようになったのです。今回の発表では、その機序が、血液の検査制度やその運用のあり方の変容、法律や健康保険制度の整備、あるいは献血制度そのもの変転といったさまざまな角度から浮きぼりにされるでしょう。そして、血液を「銀行(バンク)」するということの意味合いが、情報のヘモビジュランス(疫学的監視)や「人体」という形象との関連から考察される予定です。
 献血の「歴史」は献体のそれとともに、移植医療のための臓器提供を推奨する際に、モデル・ケースとして言及されることがあります。しかし、固有の展開をしてきたそれらを「善意」という地平にならべ、「倫理」を語るということに収束させてしまうのでは、並走するロジックの行方を取り逃がしてしまうことになりはしないでしょうか。耳なじみのよい修辞とは別の局面で、われわれの乗っていることばは同時に何を遂行しているのか、この機に一緒に考えてみましょう。
 みなさまお誘い合わせの上ご参加ください。

※本報告は、平成15・16年度の文部科学省科学研究費補助(特別研究員奨励費:「ドネーションの歴史社会学的考察」)の研究成果の一部である。

【「医療とSTS研究会(仮)」の立ち上げについて】

 STSNJでは、「医療とSTS研究会(仮)」の立ち上げを検討しています。読書会や研究発表をとおして、医学史・医療社会学もふくめた広い視点から「医療」や「身体」の問題にアプローチしていく予定です。具体的な話し合いは、今回の定例研究会のあとにいたしますので、こちらにご興味がおありの方も、ご参加をお待ちしております。


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