私,プラズマ・核融合研究者の味方です。
 調 麻佐志(信州大学人文学部)



      

 私のことをいくらか知っている人なら,いきなりの,らしくないタイトルで面食らったかもしれません。このような気持ちになった(洗脳された?)理由を思いっきり簡単に説明させて下さい。


 話は今年の2月に始まる。ある日,知らない人から一通の電子メールが届いた。「37回目を迎えるプラズマ・核融合若手夏の学校で,今回,科学技術とそれに携わる人の責任について特別講演を企画しました。つきましては,講演に来て下さい」という依頼であった。有り難いことに『科学技術時代への処方箋』を夏の学校の責任者である学生さんたちが目を通してくれて,それで私に白羽の矢が当たったらしい。二つ返事で引き受けたのは言うまでもない。
 その後,私は「インターネット上の戦い」をくぐり抜け,3月のSTS国際会議でScience Warsについての見聞を深めて,いつのまにか気分だけは一端のscience studies soldierになっていた。とはいえ,私は喧嘩(を売るの)はあまり好きではないので,この夏の学校では,一般的な科学者の責任について淡々と話すつもりの決意を固めていた。「製造物責任法やインフォームド・コンセントの考え方を科学技術共同体に適応すればどのような帰結が導かれるか?」といった話をするつもりだったのだ。
 しかし,核融合研究について何も知らないまま講演をするのはあまりに失礼と考えて,直前の一週間で付け焼き刃ではありながら最低限の知識を仕入れ,この研究分野の置かれた状況を把握するよう努めた。その結果分かったのは,核融合研究の惨憺たる状況=経済的な行き詰まりであった。
 ITER(国際熱核融合実験炉)計画にまつわる最近の動きをご存じならば,すぐにお分かりいただけると思うのであるが,現在最も有望な核融合による発電を実現する形式(トカマク型)は,技術的にではなく経済的な問題で行き詰まりを示している。端的に言えば,銀河連邦でも成立しない限り(copyright 野村元成氏),核融合エネルギーを商業的に利用するだけの資金が提供できるスポンサーがないことが明々白々なのである。
 ここにいたって私は発表内容について方針転換して,核融合研究の問題点をひたすら指摘するという形で講演を行うことにした。要は,土足で上がり込む決意を固めたのであった。
 その顛末はというと,彼ら/彼女らは実によく分かっていた。実によく分かっていたというのは,私が提供した情報について精通していたという意味ではない。そうではなく,スポンサーたる社会にどのようにこれから接すべきか,そもそも核融合研究をどのように進めれば科学者としての責任が果たせるか,若手の研究者達は真剣に考えていたのである。実用化は50-100年以上先と思われる研究にこれだけの資金を提供してもらって良いのであろうか,これが彼ら/彼女らの悩みであった。その真剣に悩む姿勢に心(?)を打たれて,私は核融合研究のサポーターになる決意を固めたのである。
 ただし,付け加えるならば,今回私のような人間を呼ぶにあたって核融合研究界の長老にお伺いをたてたところ,そんな奴を呼んではいけないという説教をくらったという内輪話を主催者から聞いている。だから,あくまで私は「若手」だけの味方でいたいと思っている。


追記
 多くの若手核融合研究者が雑誌Newtonなどの記事を見て,これからは核融合の時代であると確信を深めて,あの分野に入っていったということがわかり,いたく感動してしまった。




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