参加報告: 議員連盟「科学技術と政策の会」第5回シンポジウム-科学技術の国民的普及に向けて-に参加して



松原克志(常磐大学)


 STSNJ会員の方にもNJ事務局を通じて案内が送られたはずだが、議員連盟「科学技術と政策の会」の主催による表題のシンポジウムが、昨年(1998年)9月16日に約200名の参加を得て霞が関ビル内の東海大学校友会館「阿蘇の間」で開催された。機会あって私も参加できたので、その参加記をSTSNJの方々にご笑覧いただこうと思う。
 シンポジウムの内容を紹介する前に議員連盟「科学技術と政策の会」について若干触れることにする。
 そもそも「議員連盟」とは何であろうか。正直、私は「ある目的を持った国会議員の集団」程度の理解しか持ち合わせていない。そこで1999年版「イミダス」によると議員集団と議員連盟はほぼ同義であり、「日中友好議員連盟」のような相手国との友好親善を目的とするもの、「情報公開法制定議員連盟」のように一定の目的を掲げたもの、「釣魚議員連盟」のように単なる懇親会と様々である。また党派的なものから超党派まで形態も様々である。
 当日配布された資料によると、議員連盟「科学技術と政策の会」は「我が国の科学技術の現況と将来方向を研究し、政策に反映させることを目的とし、科学技術創造立国を推進する議員連盟として1994年6月に発足」した。そしてSTSNJでは名の知れた「科学技術基本法」の法制化を中心となって進めたのである。現在、超党派の国会議員144名、学識経験者10名によって組織されている。代表は中山太郎氏と松前達郎氏、幹事長は近江巳記夫氏、幹事長代行は鳩山由紀夫氏である。今後の活動として、「科学技術評価会議法案(仮称)」、「医薬品研究開発促進法案仮称)」、「原子力防災特別措置法案(仮称)」、「ものづくり基盤技術基本法案(仮称)」等の法制化や科学技術の重要性を理解促進させるための国民運動の展開等を通じて、科学技術政策の普及促進のための諸活動を積極的に行おうとしている。
 そして今回のシンポジウムは「科学技術が国民から理解されにくく離れた存在となることは人間・社会生活を豊かにするという科学技術本来の使命からしてあってはならないこと」という問題意識に対する施策立案の一助のため、当該議員連盟が主催したのである。
 シンポジウムは近江氏の開会挨拶、石川六郎氏(社団法人日本工学会会長)の来賓挨拶に続き、内田盛也氏(社団法人日本工学会副会長)の講演(題目「構造改革に向けた国民的科学技術振興」)、西澤潤一氏(岩手県立大学学長)の講演(題目「科学技術の国民的普及」)、最後に鳩山氏の経過報告並びに閉会挨拶で進行した(註1)。
 近江氏、石川氏の話を私なりにまとめると、科学技術基本法以降平成12年度までの5年間で17兆円の研究開発投資をするので科学技術に対する国民の理解は必要不可欠である、ということになろう。実際、昨今の経済情勢、緊縮財政の中、科学技術振興費は突出した伸びを示している。創造立国、科学技術立国を志向することが日本の生きる道といっても、国民の理解がなければ、その支出に正当性を認めることは出来ないであろう。その点で、両氏の話は理解できる。
 内田氏は近江、石川両氏の結論にいたる科学技術を取り巻く社会情勢について詳しく話した。そしてヒト中心のライフスタイルに対応した「知識の経済化」の重要性と教育の重要性、特に大学における、を指摘した。西澤氏は長期にわたる研究助成の必要性とそれを可能にする評価の問題について話した。特に研究費配当段階での評価と事後評価の重要性を指摘した。
 このシンポジウムで私の最も印象に残っているのは鳩山氏の話である。鳩山氏によれは科学技術に興味を持つ人が国会議員を動かして欲しい旨を述べた。この話をほぼ10年前私がSTS、特にSTS教育に身を委ねる決心をしたときのような心情で聞いていた。
 当時、研究の方向性も定まらず、私は心痛な日々を送っていた。そうした中、イギリスで1983年に出版された高校生向けのSTS教科書、SISCON (Science In a Social CONtext) シリーズのHow can we be sure?(註2)を紹介された。そこには科学技術の社会問題にどのような対処ができるかということで、政治参画することによる解決が述べられていた。それは例えば選挙や議員への陳情である。そしてそれが民主主義に基づく方法論として説かれていた。これを読んだとき、STS教育に熱くなる自分を感じたのである。
 確かに民主主義の方法は種々あろう。なかでも国家や地方自治の意思決定という点では国会や地方議会は最も重要である。しかし多くの日本国民は政治を職業にする人々、すなわち政治家や政治家集団と疎遠なようである。そのためか、問題解決のため何か政治家と相談することは問題解決の正攻法とは思われていないようである。そしてSTSNJの会員にとってもその状況はほとんど変わらないような気がする。しかし、私はそれでいいとは思えない。なぜなら憲法に記されている「国会における代表者を通じて行動」することを遵守したいからである。言い換えれば私達の意思を「国民の代表者」にも共有してもらいたいのである。
 STSが末尾のS、すなわち「社会」との関わりを重視するなら産官学のみならず、毛嫌いせずに国民の代表者たる「政」を巻き込むことも重要と考える。雑多な集団がSTSを進展させていくと確信するのである。STSNJが関係諸団体の一つとして議員連盟「科学技術と政策の会」とどのような協力関係を構築するのか、期待したい。
 以上をこのシンポジウムに参加して感じた。シンポジウム自体は1時間30分という時間に対して内容が豊富だったためか議論の時間がなかった。その点が参加者としては悔やまれる。なお、当日STSNJの会員も相当数参加されていたことを付け加えておく。


 (註1)シンポジウムの記録は「科学技術と政策の会」の事務局を担当する社団法人新構想研究会のご努力により文章化されている。この参加記の記述にあたり、御用納めの日の突然の電話による問い合わせにも関わらず、ご好意により急遽ファックスしていただき、入手できた。事務局の安藤氏に感謝申し上げる。
 (註2)STSNJ企画・小川正賢監修「科学・技術・社会(STS)を考える」(東洋館出版社、1993)に第2単元「科学は本当に確実なものだろうか」として翻訳され収蔵されている。




春日 匠


 STSNJの次回のシンポジウムは「グローバル・サイエンス、ナショナル・サイエンス、ローカル・サイエンス」と題して、誰のための科学技術かを論じる予定である。その点を考えるにあたって重要なポイントが、この議員連盟のシンポジウムでも議論されていたと思われるので、そのあたりを中心に、松原氏の報告を補足するような形で議論の内容を紹介させていただく。
 去る9月16日の午後、台風一過の青空が広がるなか、議員連盟「科学技術と政策の会」が主催するシンポジウム「科学技術の国民的普及に向けて」に出席するため霞ヶ関ビルを訪れた。さすがに「議員連盟」の会合だけ会って、ジーパンは私一人である。受付の女性達が私の格好をみて露骨にひるんでいた。参加者名簿に私の名前を発見して、「あ、っありました」と、これまた露骨に安心した笑顔を見せてくれた。・・・そりゃあるんだってばさ。ちゃんと申し込んでるんだから。
 ちなみに議員連盟「科学技術と政策の会」は、二年前に議員立法として可決された「科学技術基本法」を立案した、共産党を除く超党派の政策研究会であり、代表は中山太郎氏(自民党)とのことである。
 さて、シンポジウムは政治家と日本工学会のお偉方の率直な意見が聞けて大変参考になった。科学技術と社会の関係を考えていく上で、今後、彼らとどう[協調・対抗](←適切だと思われるほうに丸をつけよ)していくかは我々STSNJなどにとっても一つの課題になるだろう。
 講演者はつごう5人。政治家が、開会挨拶をした「科学技術と政策の会」幹事長の近江巳記夫氏(シンポジウム当時新党平和、現公明党)と閉会挨拶をした同会幹事長代行(←政治家がよくやるけど、こういう場合の「代行」ってどんな意味なんでしょうねぇ)の鳩山由紀夫氏(民主党)である。で、学者が日本工学会会長の石川六朗氏と、同副会長の内田盛也氏、それにミスター日本の工学ともいうべき岩手県立大学長の西澤潤一氏である。西澤氏はスイスの学会に出席した後、当日成田に着く予定だったのがくだんの台風で関空に到着し、そこから飛行機や電車を乗り継いでの到着とのことで、多少遅れての到着であった。それでも来るあたり、気合い入りまくりである。
 初めに近江氏の挨拶があって、「科学技術と政策の会」についての概略の説明があった。
 さて、二番目に話したのは石川氏である。科学技術政策を考える上での基本的な事項を含むので、以下要点を簡潔にまとめる。
 科学技術基本法の成立以後、全体的な緊縮財政にも関わらず、基本法が確保した研究予算は削減されていない。これはそれだけ責任が重いと言うことでもあるとして今後の課題を提示するという論調。
 具体的には第一に、研究資金の有効活用が必ずしも達成されていない事実を指摘。改善されるべき点として
1)縦割り行政を解消して、総合的な政策立案機能をもった組織を設立する。米大統領府科学技術制作局をモデルにした首相直轄の「総合科学技術会議」を設立準備中とのこと(しかし、我が国において「首相直轄」というのがどういった意味を持つのであろうか、疑問である)。
2)創造力のある人材を育成するための教育制度の抜本的見直し(これについては具体的な方策の提示は無し)。
3)世界中の研究者に魅力のある研究環境を持った国にする。特に就労条件や生活環境の改善を行う。
4)これまでの科学者サイドからの一方通行的な情報提示だけでは科学不信を助長するので、社会からのフィードバックを受けられるような体制にすべしとのこと。そして、こうした点を鑑みれば、新しい科学技術政策の台頭期であると言えるので、産官学と政治の連携が必要だが、そのなかで政治家の役割に期待する。
 石川氏の講演は人材育成過程の重要性や、科学技術発達のリニアモデルの否定など、短いながらも今後重要になって来るであろう点を鋭く指摘していて、示唆に富むものであった。
 次に話した内田氏は13ページにのぼるハンドアウトを用意。基本的論調は我が国の科学技術の発展が世界にもたらす貢献を重視したものとなった。
 まず世界経済は堅調である必要があるのだが、世界経済が堅調であるためには日本のGDP成長率を3%以上に持って行くべきであるという話。米商務省は、「戦後50年の経済成長の2分の1は技術進歩に依存していた」という見解を表明しているが、アメリカと同様我が国でも経済成長に対する技術発達の役割は無視すべきではないと言う認識が示された。この論点は科学技術基本法の制定にも大きく影響したという。
 また、国際競争力を付けるための構造改革、ヴェンチャー企業へのテコ入れ(年間200万人のヴェンチャーによる雇用創出が期待されている)、知的資本(株価の時価総額から純資産を引いた額)の重要性などが指摘された。
 こうした中で、資源がない国家を維持していくためにも、経済のみならず、科学的な分野、特に「サイエンス・ベース・テクノロジー」で世界のリーダーシップをとれるような国家であることの必要性が強調された。
 この中で、政策的にテコ入れされるべき分野として流通・物流、医療、生活・文化と言ったいくつかの産業があげられた。特に、生活・文化面で文化学院がイタリア等のファッション業界からも注目を集めていること、また多くの留学生を受け入れるなどの功績を果たしていることに言及。国の予算によらずにこれだけのことができる事実を強調した。
 こうした基本的視点を示しつつ、その後、国家戦略と科学技術の関わり、アジア経済における日本の役割、科学技術振興における国民的理解の必要性などについて、現状の問題について厳しい視点を示しながら、今後の展望を語った。
 その次に遅れてきた西澤氏が壇上にあがった。開口一番、台風時における空港などでの対応の遅さを批判。「紙切れで勉強した」日本の若い人たちは危機対応能力がないと一括(ちなみに、口振りからするとこの「若い人」はどうも60歳以下ぜんぶ含まれるらしい)。
 西澤氏の講演の基調は、氏自身の豊富な経験を元に、我が国の長期的な展望のなさや、研究費配分の欠点を指摘するものであった。また、科学技術基本法については、予算配分後の評価法を確立していなかったことを指摘。中山太郎氏が「評価制度のない法律はざるだ」と事前に指摘していたのを、成立を急いで押し切ってしまった点を後悔すると述べた。氏の提案の要旨はこの点にあり、まず評価システムを確立すること、それに研究する側が国家戦略の中での自分の責任を自覚することを重視するべきであると言うものであった。
 最後に、研究会の幹事長代行の鳩山由紀夫が挨拶。開口一番、「代行とか代理とか、そんなんばっかやってる鳩山です」と『週刊XX』あたりが喜びそうなギャグを飛ばす。鳩山氏は現在「科学技術と政策の会」で準備している法案等、会の活動を報告。
 いずれにせよ、もっとも感銘を受けたのは、彼らがマイナーな領域を決して軽視していないという事実である。工学会の内田氏が繊維・アパレル産業における文化学院の功績と重要性を強調していたのはけっこうなことだし、鳩山氏が説明していた「ものづくり基盤技術基本法案」が(私の読解通り)「大田区(など)の町工場を大切にしよう法案」の意味であれば、これもけっこうなことである。日本に新たなヴェンチャー精神を根付かせることも急務には違いないが、すでにあるそれを大切に育てていくことも大切なのだ。
 次に、気になった点について簡潔に述べれば、彼らが一貫して国益の問題と世界(世界経済や第三世界)への貢献をあまり矛盾しないものとして語ったことである。もちろん、科学技術が一国のためにのみあるのではないという認識があるのはよいことだと思う。また、内田氏がハビビ・インドネシア大統領の言葉として、日本の企業はアジアからのインターンシップを受け入れることに欧米より閉鎖的だと語ったことからも判るとおり、たしかに「世界のためにも日本のためにもなること」で、まだまだ我が国にやれることはありそうである。しかし、はたして「誰のための」科学技術振興なのかを再考したとき、それらは矛盾を孕まないものであり得ようか。



[戻る]
Copyright (C) 1998, STS Network Japan
All rights reserved
For More Information Contact office@stsnj.org