STS Network Japan '96 夏の学校 報告と感想

 今年度の「夏の学校」は初めて関東近郊から離れ、北海道という場所にもかかわらず(それゆえか)60名近い方々の参加を得られ、下記のようなプログラムで大盛況のうちに終了いたしました。

  日時  1996年7月19日(金)〜21日(日) 
  会場  藤女子大学セミナーハウス
  統一テーマ:「日常生活とSTS」

7月19日(金)
1.総合イントロダクション (座長: 柿原 泰)

・フェミニズムとSTS
−−我々の生活にとってSTSはどのような意味があるのだろうか?−−
調 麻佐志(信州大学人文学部)
2.「日常生活」の視点から part.1 (座長: 川崎 勝)
・日常生活の科学・教科:Human Ecology−−RichardsとMIT−−
住田和子(藤女子大学人間生活学部)
・高校男子校家庭科生態学
小竹千香子(日本女子大学人間科学部)

7月20日(土)
3.社会生活とSTS (座長:調 麻佐志)
・市民運動とSTS
川野祐二(神奈川大学大学院)
・「不妊」治療をめぐって
柘植あづみ(北海道医療大学)
・現代医療と社会−−STSの観点から−−
川崎勝(山口大学医学部)

 4.「日常生活」の視点から part.2 (座長: 川崎 勝)
・フランス教師養成・環境教育事情
西野祥子(島根大学教育学部)
・家庭科STS教育の展開
中島弥生(北海道女子短期大学)
・家事とテクノロジーの社会史
柿原泰(東京大学大学院、学振特別研究員)
・生涯学習体系に市民のための科学技術教育をどう取り入れるか−−ゲリラ的取り組み−−
小川正賢(茨城大学教育学部)

 5.総合討論

7月21日(日)
 6.教育の現場から (座長: 小川正賢)
・カメラを通してみる世界−−STS的教材の一試案
杉山滋郎(北海道大学理学部)
・高校物理IAは教師の実験離れを解決するか−−生活との関連を重視した新しい科目に取り組んで−−
相樂俊憲(福島県立須賀川高等学校)
・家庭科教育実践報告
高橋カツ子(北海道札幌月寒高等学校)


◇◇◇ 委員長からの報告  ◇◇◇

「生活」と「STS」の出会い
'96 夏の学校実行委員長  川崎 勝(山口大学医学部)

 今年の夏の学校も無事に盛会のうちに終了してから1ヶ月近くが経過しました。早くも懐かしい楽しかった思い出となりかけてはいますが、はからずも実行委員長を務めた者の現時点での感想を記しておきたいと思います。
 今回の夏の学校には2つの大きな特色がありました。ひとつは、初めて会場が関東周辺から離れ北海道で行ったこと。もうひとつは、「生活(特に日常生活)」とSTSの関係をメインにすえたことです。
 僭越な言い方ですが、こうした内容になったのは、私が意図的にそうなるようにしたからです。逆に、委員長としての私は、実はそれだけしかやっておらず、裏方の諸々は副委員長の柿原さんを中心とした東京の事務局に全て押しつけてしまいました。運営にご協力いただいた全ての皆さんに深く感謝します。
 さて、今回の夏の学校の発端は、2年半前の「大学STS教育」のシンポに遡ります。その後の懇親会の席上で、私は藤女子大の住田先生やその弟子に当たる西野さんと出会い、旧来の家政学批判の上に成立した「人間生活学」の名の下で試みておられることに強く関心をひかれました。従来のSTSで欠落していたが非常に重要な部分を埋めてくれるのではないかと直感的に思ったからです。
 その頃から、徐々に「北海道で『日常生活とSTS』というようなテーマで夏の学校が行われたらいいな」と思うようになっていきました。結局、たまたま委員長のお鉢が回ってくることにより、それを自ら実現する機会を与えられることになったわけです。
 準備段階では、北海道・東京・山口で絶えず連絡を取り合う必要があり、色々と大変ではありましたが、住田先生はじめ、藤女子大関係者の皆様の絶大なご協力により無事実現にこぎつけることができました。
 今回は、開催地もテーマも異色でしたので、企画段階では、例年のように20数名の参加者が集まるかが気になりましたが、これは完全に杞憂で、非常に多くの方に参加していただくことができました。その最大の要因は、受け入れ準備だけでなく、プログラム作成でも多大なご協力を賜った住田先生の人脈で現場の家庭科の先生や藤女子大の学生さんにも多数参加していただくことができたからです。重ねてお礼申し上げます。
 ただ、その分、STSは初めてという方も多数おられたのですが、夏の学校恒例の深夜までの議論を通じて、その方たちにもある程度はSTSについてご理解を得ることができとても嬉しく思いました。この点は、夏の学校を機会にしてNJに入会してくださった方が多数おられることで裏づけられていると思います。
 各参加者の方々がどのようにお感じになったかで今回の夏の学校の評価は定まると思うのですが、一参加者としての私は、もう一度このテーマでこの場所で夏の学校が行われれば、と思っています。

 えっ、自分の好きなようにやったのだからそれは当たり前だって。これは失 礼しました。

 勝手ながら、以上を夏の学校の報告に代えさせていただきます。




◇◇◇ 参加者からの声 〜 STS-NETから抜粋  ◇◇◇

 夏の学校が終了して間もなく、STSNJのパソコン通信ニフティー・サーブ上のSTS-NETに、帰宅早々の参加者の皆さんから多くのメッセージが載せられました。「藤女子大学では、快適な環境と、エキサイティングな研修に明け暮れ、充実した気持ちで、福島に帰ってきました。」(相樂俊憲さん)、「藤女子大のセミナーハウスの設備と職員の皆さんの温かさと、家政学、家庭科教育関係の方々の熱心さに驚き、また感謝いたしました。」(小川正賢さん)、「夏の学校は実に刺激的でした。『STSリテラシー』が上がったようです。」(梶 雅範さん)などなど、とにかく今回の夏の学校の盛況ぶりが伺われる声があふれていました。
 発表内容については(母集団は3人ですが)、杉山先生のカメラの話題が最人気のようでした。「個人的には,小竹さんの家庭科教師体験談と杉山さんのカメラが面白かったです。」(調麻佐志さん)、「小竹(おだけ)先生のお話、柘植さんの医療現場の長年のインタヴューに基づく報告、西野さんの報告、杉山さんの使い捨てカメラの教材化の話などが印象に残りました。旅行中さっそく使い捨てカメラを買い、写真を撮ってから家でカメラを分解してみました。なるほどよくできています」(梶さん)、「個人的には、柿原さんの家事のテクノロジーの話と、杉山さんのカメラを通して見る世界の話が楽しかった。」(小川さん)。いずれにしても「日常生活とSTS」という今回のテーマが実に刺激あるものだったが伺われます。(川崎さん、良かったですね。)僭越ながら筆者個人としましては、小川さんの小学生による「身の回りの科学技術製品を祖父母に売り込むための広告作り」の話題や、高橋カツ子さんによる高校男女共学家庭科でのディベートやロール・プレイングを取り入れたSTS教育の試みは、その実践者のみならず、その相手の子供たちの姿が見えてくるものでとても興味深いものでした。(ご存知でない方のためにつけ添えますが、現在高等学校での家庭科は男女共に必修になっています。)柿原さんのお話しは、一種の家政学批判でもありまして、その意味でなかなかスリリングな話題でした。
 それから藤女子大の学生さんたちの人気も高かったようです。「藤女子大の学生さんたちも熱心でした。朝の4時半までディスカッションをしていたというのに、8時まえの食事のテーブルにつける若さは、あこがれでした。」(小川さん)。実行委員長の川崎勝さんにいたっては「それにしても、藤女子大の学生さんのまっすぐな真剣な瞳には感動しました。ああいう大学で教師をやりたい!」とのこと。これからもぜひSTSNJと懇意にしていただきたいとおもいます。
 そして今回の夏の学校の最大の成果は、やはり「出会い」だったのではないでしょうか。「懇親会でいろいろな方と話ができたのも収穫でした。楽しい話から深刻な話まで。さまざまなことのあった3日間でした」という梶さんのような感想を参加者の誰もが持たれたのではないでしょうか。
 人と人の出会い、そして分野と分野の出会い、あるいは研究と日常生活との出会い。STSと家庭科・家政学・人間生活学とのタイアップのもと60名近くの空前の参加者数に恵まれた今回の夏の学校は、そうした出会いにとってうってつけの場であったように思います。そもそもSTS自体が多様な分野の結合体ですし、またくしくもSTSも「人間生活学」もともに、既存の学問の枠組みと批判的に取り組む若く活発な研究活動でもあります。今後ともぜひ積極的に交流を続け、互いに刺激しあいながら各々のフィールドを拡大し、そして連携してゆけることを切に願います。

 今回はSTS-NETからの応答でしたが、家庭科・家政学・人間生活学の方々からの感想もぜひ伺いたいと思います。とくに夏の学校を機会にネットワーク・ジャパンに入会された方々のご意見・ご感想をお待ちしております。(ぜひSTS-NETにもご参加ください。)

          STSNJ事務局情報担当  平川 秀幸 (国際基督教大学大学院)


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