STS Network Japan 夏の学校2001 報告・要旨(前号より続く)

教育は再生産の論理から離脱しうるのか?

高崎経済大学 櫻本陽一(syoichi@aqua.famille.ne.jp




※夏の学校で報告させていただきましたが、報告内容が抽象的で、こなれていなかったと反省しています。そこで、あらためて、報告趣旨をレジュメにしました。ご了解ください。

I 教育における「再生産」とは?

(1) 現象レベルで日本においても容易に観察できる再生産

 例えば、いわゆる偏差値の高い大学では、(統計的に)多くの学生の親は、いわゆる新中間層(雇用ホワイトカラー上層:大企業のサラリーマン、公務員、弁護士・医師、教員など)出身者、しばしば大学の教員だったりする。この事態は、だれもが当たり前と思えることではなく、社会全体の職業構成等を考えれば、説明を要する事態である。しかも、これは近代社会の理念、個人の自立、進路や職業選択の個人の自由による自己決定、(個人のみに帰属するものとしての)能力を重視する能力主義、(属性ではなく)業績による評価、教育機会の均等・平等といったものとある意味では矛盾する事態である。この時、現実が理念に反していると告発することも不可能ではないだろうが、より重要なことは、そのように建前として掲げられている理念とそれを裏切る現実の間に、実は、どのような関係が存在しているのかを明らかにすることである。

(2) 教育の目的論と教育の社会的機能としての再生産

 教育とは、知識を伝達することによって、被教育者の能力の拡大を図るものであり、学校制度は、そのような教育を特定の年齢層の生徒を対象として組織的、制度的に行うものとされている。しかし、そのような目的論(公式に掲げられた目的による制度の定義)が、一方でそこで伝達される知識内容が具体的にどのようなものであるか、あるいは、知識の伝達の成否を左右する諸条件がどのようなものであり、それがどのような人々において満たされ、どのような人々において不十分なのかを問わないまま、単に建前として掲げられるだけであれば、それらの目的論そのものが、教育制度が現実に果たしている社会的機能を隠蔽していることになる。現実には、ブルジョア的あるいは新中間層的なリアリティに立脚し、そのようなリアリティを経験する中から形成される認知枠組みに親和的な形で抽象化、体系化、定式化された、知識体系(これは結局は、学校的であることによってまさにテクノクラート的である、支配者的合理性を支えるものとなる)は、そのようなリアリティを共有しない人々(被支配者)にとっては疎遠な知識でしかない。それゆえ、被支配者は、そのような知識を拒否し学校から脱落する(支配構造の直接的な再生産に帰結する)か、自己疎外的な秩序適応の努力によってそれを身につけるか(一見すると、個人的には再生産の回路から抜け出るかに見えるが、結局は支配的な論理に支配されつづけている)の選択を強いられる。(教育内容の批判と知識修得の条件の明示化が重要)

(3) 「学校制度の再生産機能」=学校制度が、階級支配の再生産に貢献し、さらにその過程そして部分的には、階級支配の構造そのものを正統化するということ

 近代的な理念や教育の目的が建前的に主張されるのみの場合、それらを実現するための条件が社会的に不均等であること、またそもそもその条件そのものが問われねばならないということが、隠蔽され、その結果として、現実には不平等の再生産であるような事態が、近代的な理念や近代的な教育の目的に則った制度の機能の結果として、正当化=正統化される。

II 再生産過程の隠蔽=正統化をささえる条件の変化と再生産過程への実践的介入の可能性

一方で教育システムへのアクセスの機会の「一般的な」拡大と他方での教育システムを通じての社会的に有利な地位へのアクセスの可能性の閉鎖化という今日の事態(親の経済力がなければ「よい学校」へは行けない、「よい学校」へ行ってもそれだけで安定した社会的地位が保証されるのではない)は、隠蔽を成立させ得なくしている。実際、再生産の論理がより強く貫徹していく傾向は、むしろシステムによる再生産の機能を隠蔽するのではなく、露にしてしまうことになる。学校制度の再生産の機能(とその機能不全)が、社会的に明らかになりつつある条件下においては、学校制度は、これまでのような在り方によっては、再生産のための装置として機能しつづけることはできない。このような事態は、少なくとも、教育に関わる批判的な認識を深化させる好機であり、さらには、事態をより望ましい方向に変容させるべく実践的に介入する好機でもありうるはずである。






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