代表挨拶
夏目賢一(東京大学大学院博士課程)




 「STS研究」では、その言葉が示すように、取り扱う問題が科学技術と社会との相関関係において生じる広範囲の問題群に及んでいます。そしてSTSNJでは、この「STS研究」を標榜して、さらにアカデミックな場を超えて、それらの問題群についてさまざまな社会的立場の人々が議論できるような場を作るために活動をおこなってきました。今日、STS研究への社会的な期待が徐々に高まっているように感じます。科学技術に関する個々の社会問題に取り組む団体が多々ある中で、このSTS研究に期待を寄せる背景には、個々の問題群を取り扱うだけでは見えてこない、科学技術に関する問題に共通して内在して解決を困難にしている、ある種の問題点が予感されているからでしょう。個々の問題群を取り扱っているだけでは問題が時間的・地域的に局所化されてしまい、科学技術に関する諸問題に共通して内在する問題点があるとしても、それが発見されにくくなってしまいます。もちろん問題をそれが生じてきた文脈に即して局所的に考えることは、問題の本質を見失わないために重要です。しかしその予感が正しいとすれば、これら局所的に考えられているそれぞれの問題群を、上から抽象的に論じてしまうのではなくて局所的な問題として維持しながらも、時間的・地域的に「継続・接続」した上で考察することが重要になります。そして、ここにSTSNJが「科学・技術・社会」全般を視野に入れて活動を続けることの意味があると考えられます。
 以上を念頭におくと、今年度の活動においては、これまで以上に諸問題に対する関心を持続し、そして並行するそれらの問題群に関連性が見出せるならば、その結節点を認識しつつ連続性をもって考えていくことが重要であると考えられます。また局所的問題群を局所的なまま維持しながら考えていくことを可能にするために、社会的立場の違いの中で、とくにそれぞれの当事者において、問題点や科学的知識を「いかにして伝達・共有するか」という問題について考えていくことが重要だと考えられます。シンポジウムや夏の学校などSTSNJの運営にも、この点において工夫をしていけたらと考えています。
 この一年間、どのようなことができるかわかりませんが、皆様とともに方向性を見出しつつ、努力していきたいと考えております。皆様とともに活動していけることを光栄に思います。至らない点も多いと思いま すが、よろしくお願いします。




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