STS Network Japan 2000 夏の学校 参加者感想




石垣良(東京工業大学)

 はじめまして。STSNJ夏の学校に初めて参加した、東京工業大学理学部の石垣と申します。以前から、科学技術が産み出す社会的問題、科学技術と社会の関係について興味があり、2000年度夏の予備校・夏の学校に参加しました。
 夏の予備校は、内容が難しかったというのが正直な感想です。テキストの予習が十分でなかったという反省はありますが、金森修さんの『サイエンス・ウォーズ』は、僕にはかなりハードルが高かったです。「エコ・ウォーズ」など、自分の関心と一致する文章は読みやすかったのですが。ある意味では本番の夏の学校よりも苦戦し、悔しいと思うと同時に、これから科学技術論の学習に力を入れていきたいと思いました。
 夏の学校のテーマは「STSによる21世紀の批判的構想」ということで、これは僕が特に興味があるテーマのひとつでした。「21世紀日本の構想」懇談会の報告書を見たのは今回が初めてですが、実際に読んでみて、ネオリベラリズムの負の側面を綺麗事で誤魔化すことすらもしていない文章だと思いました。「国家は国民を教育する権利を持つ」という無茶苦茶な新概念など、公権力による統治が全面に押し出されている点が気にかかりました。発表の中では、柿原泰さんの「科学技術論の課題−ネオリベラル・テクノクラシー批判−」が特に印象に残っています。「市民」と行政の話し合いのテーブルが用意されることで、システムや政策に対する根本的批判が押さえ込まれるというのは、まさに僕たちが現在も抱えている課題ではないかと実感しました。
 夏の学校のもう一つの主役は、夜の交流会だと思います。色々な立場の人と自由に話ができる機会はとても貴重で、そして楽しいものでした。初めて知り合った人たちとも、酒を交えながら色々な議論ができました。ひとつの希望ですが、他の人に声をかけやすいように、是非胸に付ける名札が欲しいと思いました。今回、夏の学校に参加してとても良かったです。これからもできるだけ、夏の学校に参加していきたいと思います。


木村宰(東京大学大学院)

 私は"STS"という言葉を大学院に入ってから初めて聞いたので、まだ数ヶ月のつきあいしかなく、当然夏の学校も今回が初参加だった。"STS"とは何なのか、STS-NJはどんなところなのか、まだまだ分からないことばかりだが、夏の予備校・夏の学校では本当にたくさんの刺激を受け、多くのことを学ばせていただいた。ありがとうございました。
 まず夏の予備校では若い人のすごさに圧倒された。博士課程の人だけでなく修士の人、時には3,4年の学部生の人までが、それぞれの専門分野に関した深い知識と考察を、読書会の議論の中でSTS的な問題にからめて活発にたたかわせており、「学生だけでもこれだけ有意義なディスカッションができるのか」と驚いた。一部、知らない人物の名前や概念が登場しまくってついていけないところもあったが…。夏の予備校には、お金や時間のことから参加しようかどうか一時迷っていたが、本当に参加してよかったと思う。
 夏の学校では、思ったより多様な分野の人が集まっていた。科学史や科学哲学だけでなく人類学、社会学、教師、左翼運動家、など広範な分野からの参加があり、それぞれのアプローチや問題意識を垣間見ることができて興味深かった。特に人類学の人たちが問題提起していた多元主義的な考えやネオ・リベラリズム批判には目から鱗が落ちる思いがした。
 また、住民運動に実際に関わりながらそれを対象とした研究をしているという人にも何人か会うことができた。運動と研究の狭間でどのような道をつくっていくか、ということについて議論したり教えてもらったりすることができ、とても嬉しかった。またこの点に限らず、夜の懇親会(飲み会?)は私のように日頃STSについて議論できる場をあまり持たない者にとって大変有意義で、かけがえのない場であったと思う。
 今回参加して一つ疑問が残ったのは、あの場全体が科学的知識に対して少し相対主義に偏り過ぎているのではないだろうか、ということだ。科学の特権的地位を剥ぎ取るまではいいのだが、「これこれの科学的方法では、これこれのことが明らかになっている」というデータを全く踏まえずに議論を発散させているような気がしたことが、何度かあった。科学主義に偏った人がもっと参加して、議論に加わっていけばもっと有意義な場になるのではないかと思った。来年もぜひ参加したい。


本田裕子(神戸大学)

 7月27日夜、神戸を発つ。夏の予備校の課題図書も半分程しか読めておらず、理解力のなさを実感しつつも、各地のSAでお土産を見た途端、そっちに夢中になり、観光気分で現地に着いた。温泉に入り、風穴を見て、ほうとうを食べたら、そろそろ始まる、いい時間だ。
 知らない言葉や人名ばかりなので、難しいのはもちろんだが、それよりも、いろんな方の考えが聴けたことが、非常に楽しかった。とはいうものの、後悔先に立たず。未読の部分は、さっぱり解らない。必死になってついていこうとするものの、本の中で説明されているかも知れないと思うと、訊けなかった。 しかし、一番苦労したのは、参加者の名前を覚えることだった。そんなに大量に憶えられないからだ。名札制にしてくださると良いのに。
 夜の飲み会は初対面の方々と仲良くなる機会であったが、吸収する知識量は昼間と変わらないので、頭はフル回転だった。 
 30日の昼前の発表で、応酬が激しくなった。議論の中心になっていた点を知り合いの院生に尋ね、また自分の考えを聞いて頂いていると、時間が余っているとかで、急に、それを前で発表することになってしまった。
 怖くて震えていたものの、何とか発表が済んだ。最後のほうは、伝えたいことがでてきて、楽しくなってきた。だが、内容が分散して、結局何を言いたかったのか判らなくなりそうで、それが怖かった。
 発表が済むとすぐ、ゲストの山の手緑さんに怒鳴られた。いい加減な思いこみの知識で発表したので、当然なのに、涙が出た。よく分かっていないことを例に使うことは、とても危険なのだと実感して、怖くなった。また、その分野を研究しておられる方に失礼なのだとも思った。
 危険を認知し合い、問題に対する考え方を発表することも、とても大事なことである。だが、私が言いたかったことは、折角集まっているのだから、それを用いてどう今後につなげるのか、または用いたくない手段なら、代わりにどうすればいいのかを話し合った方が良いのではないか、ということだったが、あの下手な発表で伝わったかどうか。
 ともかくその発表がきっかけとなって、その後、沢山の方がいろいろと教えてくださるようになった。それがとても楽しく、嬉しかった。
 この勉強会に参加して、実際どれほど知識が身に付いたかは甚だ疑問だが、本当に良い体験だったと思う。
 最後になりましたが、この会に連れて行ってくださった塚原先生をはじめ、この会をアレンジしてくださった方々や、その他皆様に感謝しております。本当に有難うございました。



矢谷直子(一橋大学大学院)

 今回、「夏の学校」でSTSNJへ初めて参加させていただきました、一橋大学の矢谷です。人類学をディシプリンとして第三世界における開発と女性の問題を研究領域としています。STSについてはほとんど予備的知識を持っていなかったのですが、「予備校」に参加して『サイエンス・ウォーズ』を読み、まずその問題構制が人類学で現在問題となっていることとほとんど同じであることに驚きました(これは単に私の不勉強で、STSと人類学の学史的背景を現代思想史的状況に辿っていけばいわば当然なのですが)。
 科学的知識の普遍性に対する、社会構成主義的批判に基づくフェミニズムからの告発や、マイノリティによるエスノサイエンスの主張は、人類学におけるカルチュラル・ウォーズとまったく同じ構図です。西洋中心主義的科学への批判から来る民族的特殊性の主張が、第三世界においては保守派に政治的に利用されて民族主義を助長したり、現状維持的立場を追認し、女性に抑圧的に働きかねないという問題点の指摘など、サイエンス・ウォーズとカルチュラル・ウォーズ、そして第三世界のフェミニズムが、まさにリンクする地点なども指摘されていました。
 問題意識やアプローチの方法が近かったせいか、どの議論も大変興味深く参考になりました。今回特に印象深かったのは、STSでは科学・技術に関わる公共政策や社会的な問題へのSTS研究者の貢献ということが、学の目標として明確に意識されている点です。これは、私が専門とする「開発の人類学」の分野において、特に日本では、開発援助の現場やその計画立案過程での議論への貢献ということについて、あまり熱心でない業界的なムードに比べて対照的であるように思われました。もちろん、開発現象自体を問題視せずに、いわば、開発という目標達成のために、手段的に人類学的な知識を動員する応用人類学的な立場には私も反対なのですが、現実に、JICAやその他の開発援助機関や、様々なNGOの現場で実際に活動している人たちの議論において、人類学的な言説があまり浸透していない現状に出会うにつけ、人類学内部だけでの議論へと閉じこもりがちな業界的態度の問題性を感じます。沈黙することそれ自体が十分に政治的なアクトなのだということが明らかである現在、人類学がどのようにその成果を持って、具体的な社会的出来事に関わっていくことが可能なのかということが、これから研究を続けていく中での重要な課題の一つであると思っています。そうした意味で、STSの現実の日常社会における科学・技術に関わる問題や政策への関与の意志や目配り、「科学的公共圏」といった問題構制からは、学べるものが多いのではないかと思いました。これからの議論の発展が期待されます。


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