2000年 STS NETWORK JAPAN 「夏の予備校」報告
三村 太郎(東京大学)


 去る7月28日、夏の学校に一日先駆けて、初めての試みである「夏の予備校」が開催された。
 開催当初の趣旨としては、夏の学校に初めて参加するような「STS初心者」が、夏の学校期間中に展開される議論へスムーズに入っていけるように、例えば基本タームを解説したりするような場・予備校を設けよう、というものだった。
 まず「予備校」の基本図書として金森修『サイエンスウォーズ』(東京大学出版会)を選んだ。本書を読んでみると分かることだが、言及されている文献が大変豊富で、今後の研究指針を得るにはとても重宝する文献であることは確かである。その点で『サイエンスウォーズ』は、今後のサイエンスウォーズ、ひいては科学論の基本文献となるだろう。今回「予備校」で『サイエンスウォーズ』を取り上げたことは、基礎を固める「予備校」の性格と結果的にうまくマッチしたと言える。
 そして「予備校」の形態としては、章ごとに内容をレジュメ報告する担当者を一名決めておいて、レジュメ報告後に疑問点のディスカッションを行う、というものを取った。
 当日、24名が集まり、午後3時頃「予備校」は開始した。参加者の大多数が、大学の学部生、院生で、金森氏の見解に対する批判や、論考の背景となる事情の解説など、さまざまな論議が飛び交った。
 だが「予備校」を通じて、当初見込んでいた「ターム解説」は、あまり行われなかった。自由に疑問を出して誰かが答える、という形態のために、あまりにも初歩的な疑問は提出しにくかったのかもしれない。というよりも、初心者には疑問を生み出すこともなかなか困難なものである。または、参加者の大半が大学の学部生、院生だったため、質問する側、答える側の役割分担があまりにもなさすぎたことが原因かもしれない。(とはいえ、誰かの質問に対して誰かが答える、という柔軟な討論形態が本当の理想像ではある。)
 ある程度ターム解説を織り込みながら報告するように、報告者側に前もって伝えておいた方がよかったのだろうか。あるいは一番最初にターム解説を講義形式で行ってから、『サイエンスウォーズ』に入るべきだったのか。そして、討論の流れをまとめる責任を持つようなオブザーバー数人を固定しておくべきだったのだろうか。
 すなわち、どの程度・形態のレジュメ報告・討論を目指すかは、「予備校」としてどの程度のレベルをねらうのか、という問題と直結し、議論の余地は十分あることが実感できた。(もちろんレジュメ報告→討論の形式以外にも、「予備校」は成立し得る。例えば、講義形式など。とはいえ、ある程度の双方向性を保つには、レジュメ報告→討論の形式が手っ取り早いといえる。)
 一方、夏の学校との接続という点では、具体的な内容としてはあまり連続性は見られなかったかもしれない。そもそも、具体的な内容において、夏の学校と連続性をもたせるべきなのだろうか。それよりも雰囲気の連続性の方が、大切なのかもしれない。その点では、今回の「予備校」は成功だったといえる。
 今回はかなり直前になって「予備校」開催が決まったため、「予備校」の形態にまで議論する時間はなかった。しかし、来年以降も「予備校」を開催するのなら、どの程度のレベルの「予備校」を目指すのか、夏の学校との連関はどうするのか、という問題を今一度練る必要があるだろう。
 このように、多くの有益な反省を残しながら、初めての試みである「夏の予備校」は終了した。



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